いままでのお話 ----> その1、その2
Hに電話した。
「スピーチ二人やて?」おれは聞いた。
「ああ、別にええやろ、二人で話したら」Hはあっけらかんと言った。
「ええもなんもあるかい、知らんでえ、ボロボロになっても」おれは言った。
「ええでえ。めちゃくちゃにしてくれても」Hは言った。
こいつは、何を考えてるかようわからん――。
「ところでな」Hは言った。
「宿泊なんだが、滋賀の田舎に泊まってもらうのも悪いのでAの家に泊まってくれ」Hは言った。Aは3年下の後輩だ。
「はあ? Aって、今どこよ?」おれは聞いた。
「長田」Hは言った。
「…おまえねー」おれはあきれた。こいつ、部屋を押さえたりするのが面倒になったやろ。まあええか、Aには話をつけといてくれよ、そんなことを言って電話を切った。
Iに、スピーチで話そうとしていたことのあらすじをメールで送ったら、台本になって戻ってきた。
「手本は『ますだおかだ』です」
と書いてある。ますだおかだって、おれ知らんがな。まぁそんなことはいいとして。
いくつか書き直して送り返した。笑うところが無いのが気になる。まぁええか。
色々考えてるうちに、「二次会のBGMは学生時代に流行った歌なんかかけたらおもろいやろな」と考えた。会場にはそんな用意ないやろうし、ええ考えかもしれん。
こうなったら当日の音響は乗っ取ってしまおう。
決めた。
昔流行った曲について、チャートブックなど色々と調べる方法はあるのだが最も簡単で参考になったのがインターネットの個人サイトだったというのは興味深い。そこから粗くリストアップしたものの、Iから問い合わせの返事が無いのでCDを作れなかった。
そのうち忙しくなってしまい、準備を再開したのは式の二日前の夜だった。
Aに電話した。泊まるんだから、挨拶だけはしておこう。
「おれが止まるって話、Hから聞いてるか?」おれは聞いた。
「ええっ聞いてませんよ」笑いながらAは答えた。
「やっぱりな」おれも笑いながら言った。
「しょうがないなー」Aも笑いながら言った。
「まぁそういうことなんで、よろしく」おれは笑いながら言った。
「はぁ、わかりました」Aはやっぱり笑っていた。
「ところで」おれは聞いた。「Iから二次会の話、なんか聞いてないか」
「一ヶ月前に進行表がメールで来てますけど」Aは言った。
「しょうがねえなあ」おれは言った。
「たいしたことは決まってませんよ。でもそれっきり、なんの連絡もないんですよ」Aは言った。どうも、Iはすべての準備を一人で抱え込んでしまってるらしい。
「どうせ例によって音響のことなんか考えてへんやろなあ」おれは言った。
「また、なんかやるつもりですか」Aは笑っていた。
「いや別に。いつも通りやけど」おれは言った。
「ほんまに、好きですねえ」Aが言った。
Iに電話した。
「二次会の話やけど、聞いてくれたか?」おれは聞いた。
「それがですねー、会場にはラジカセに毛が生えたようなのしかないらしいんですよ。持ち込んでもらった方がいいくらいって話で」Iは言った。
おれは思わずきつい口調で「なんで早く言わへんねん。機材くらいこっちから送れたのに」と言った。
「すんません」Iは言った。そう言うしかないだろう。が、しかし、いくらなんでも遅すぎる。
まあ、ええか。準備しなくてええわけやし。身軽に行けるな。おれはそう思った。
―そして、前日。
なんとなく仕事も手に付かず、くすぶった気持ちを抱えていた。
「あかん、耐えられへん」おれは思った。
(まだ続くって言ったら怒る?)
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